数学基礎データサイエンス応用基礎B / 第3回 / 動かして学ぶ版
理解度 —
法政大学 データサイエンスセンター

数学基礎 — 動かして確かめる

データサイエンスで使う道具としての数学を、数・関数・確率・分布・微分・積分・ベクトル・行列の順に一巡します。式はすべて図と対応させ、値を動かして確かめられるようにしてあります。

各章の見出し右の灰色の番号は、講義スライド Math05072025.pptx(2025-06-01 版)の該当ページです。原スライドの記述に誤りがあった箇所は、その場で訂正を示し、末尾の付録に一覧をまとめました。

使い方

スライダ・ドラッグ・ボタンのある図はすべて操作できます。数値は操作に合わせてその場で再計算されます(あらかじめ用意した画像ではありません)。三角関数・微分・区分求積の図には▶ 自動があり、角度を回す・h を 0 に近づける・分割数を増やす様子を自動で見られます。各章末には確認クイズがあり、上部の「理解度」に正解数が出ます。

第1章

数の世界原スライド p.3–4

データはすべて数で表されます。まず、その「数」がどこまで広がっているかを確認します。

数は、外側へ行くほど広い入れ子になっています。自然数から出発して、引き算を自由にするために整数へ、割り算を自由にするために有理数へ、というように「今までできなかった計算を可能にする」たびに数の世界が広がってきました

数の入れ子円をクリック、または下の数を選ぶと、その数が属する最小の集合が光ります
選んだ数3
属する最小の集合ℕ 自然数
なぜ ものを数えるときの数。
集合記号中身できるようになる計算
自然数(0), 1, 2, 3, …足し算・掛け算
整数…, −2, −1, 0, 1, 2, …引き算
有理数pqp, q は整数, q ≠ 0)割り算(0で割る場合を除く)
実数有理数 + 無理数(√2, π, e など)極限をとる・長さを測る
複素数a + b i (i2 = −1)すべての代数方程式を解く
有理数と無理数の見分け方

小数で書いたとき、有限小数か循環小数なら有理数循環しない無限小数なら無理数です。0.25 は有限、1/3 = 0.333… は循環するので有理数。√2 = 1.41421356… や π は循環しないので無理数です。

なぜ √2 は分数で書けないのか

もし √2 = p/q(既約分数)と書けたとすると、両辺を2乗して p2 = 2q2。右辺が偶数なので p は偶数、p = 2k と置くと 4k2 = 2q2 すなわち q2 = 2k2 となり、q も偶数。pq がともに偶数となって「既約」に反します。したがって分数では書けません。

第2章

関数とは原スライド p.5–8

「関数」の語源はです。(はこ)に入力を入れると出力が出てくる、という道具立てを表しています。

入力 x を1つ決めると出力 yただ1つ決まる — この対応を関数(function)といい、y = f(x) と書きます。入力の集合を定義域、出力の集合を値域といいます。

箱としての関数入力を動かすと、球が箱を通って出力になります
対応y = f(x) = 2x
出力4

関数であるもの・ないもの

入力1つに出力が2つ以上ある対応は、関数ではありません。判定の基準は「左(入力)から出る矢印が1本だけか」です。出力側が重なるのは構いません。

写像の型3つの対応を見比べてください
判定関数である
データサイエンスでの意味

予測モデルとは要するに関数です。入力(特徴量)から出力(予測値)が一意に決まる箱をデータから作る、というのが機械学習の骨格です。

確認クイズ 「yx の関数である」とは、どういうことですか?

関数は入力→出力が一意に決まる対応です。1つの xy が2つ以上対応すると関数ではありません(縦線テスト)。比例や直線であることは関数の条件ではありません。
第3章

三角関数原スライド p.9

三角関数は角度を比に変える関数です。角度を入れると、直角三角形の辺の比が返ってきます。

単位円と三角関数円周上の点をドラッグするか、スライダで角 θ を動かしてください
RADIAN
SIN θ(高さ)
COS θ(幅)
TAN θ

直角三角形で書けば、斜辺 h、角 θ の対辺 a、隣辺 b に対して次のとおりです。

関数定義逆数
正弦 sin θah csc θ = ha = 1sin θ
余弦 cos θbh sec θ = 1cos θ
正接 tan θab = sin θcos θ cot θ = ba = 1tan θ

角の単位には度とラジアンがあり、180° = π ラジアン、360° = 2π ラジアンです。微分・積分ではラジアンを使います(後述の (sin x)′ = cos x はラジアンでのみ成り立ちます)。

単位円で見ると

半径1の円周上の点は (cos θ, sin θ)。つまり cos は横の座標、sin は縦の座標そのものです。ここから sin2θ + cos2θ = 1(三平方の定理)がただちに読み取れます。

確認クイズ 半径1の単位円の円周上の点の座標は、角度 θ を使ってどう表せますか?

cos が横(x 座標)、sin が縦(y 座標)です。だから sin2θ + cos2θ = 1(円の半径)が成り立ちます。上の▶自動で角度を回して確かめられます。
第4章

指数関数と対数関数原スライド p.10–14, 22–23

指数関数は「かけ算を繰り返す」関数、対数関数はその逆向きで「何回かけたか」を答える関数です。

a > 0, a ≠ 1 のとき、y = axa を底とする指数関数といいます。逆に、正の数 R に対して ar = R を満たす実数 r はただ1つ定まり、これを r = logaR と書きます。y = logaxx > 0)が対数関数です。

指数と対数は鏡像底 a を動かすと、2本のグラフが直線 y = x を挟んで対称に動きます
指数
対数(逆をたどる)
共通点 a0 = 1 なので y = ax は必ず (0, 1) を、 y = logax は必ず (1, 0) を通ります
データサイエンスで対数を使う理由

年収・都市人口・アクセス数のように桁が大きく違う量は、対数をとると分布が扱いやすい形(正規分布に近い形)になります。また掛け算を足し算に変える性質 log(xy) = log x + log y は、確率の積を扱う場面(尤度計算)で必須です。

練習:y = axy = logax のグラフの概形を描け(原スライド p.22–23)

a > 1 のときax は右上がりで、x → −∞ で 0 に近づく(x 軸が漸近線)。点 (0, 1) を通る。logax は右上がりで、x → +0 で −∞(y 軸が漸近線)。点 (1, 0) を通る。

0 < a < 1 のとき:どちらも右下がりになります。上の図で底を1より小さくして確かめてください。2本のグラフは常に直線 y = x に関して対称です。

確認クイズ log2 8 の値はいくつですか?

対数 log2 8 は「2 を何乗すると 8 になるか」。23 = 8 なので3です。対数は「何乗か」を表す数で、かけ算を足し算に変換できるのが便利な点です。
第5章

確率原スライド p.15–16

サイコロで1の目が出る確率は 1/6 = 16.666…%。これは全体を1としたときの「面積の割合」だと考えると、後の積分まで一直線につながります。

面積としての確率、そして大数の法則振ってみると、割合が理論値 1/6 に近づいていきます
試行回数0
1の目が出た回数0
実測の割合
理論値1/6 = 16.667%

回数を増やすほど実測の割合は 1/6 に近づきます(大数の法則)。逆にいえば、少ない試行で得られた割合を確率とみなすのは危険だ、ということでもあります。

第6章

分布とヒストグラム原スライド p.17–18, 21

数値の集まりを「どのあたりに、どれくらい固まっているか」で見る道具がヒストグラムです。品質管理の QC七つ道具の1つでもあります。

ここでは、ある試験の得点60人分を実データとして使います。棒の幅(階級の幅)を変えると見え方が変わることを確かめてください。細かすぎるとギザギザで傾向が読めず、粗すぎると山が潰れます。

得点60人分のヒストグラム階級の幅を動かしてください
人数 n60
平均 μ
分散 σ²
標準偏差 σ
階級の数

平均と分散の定義

得点 (x1, x2, …, xn) に対して、平均 μ と分散 σ² は次のとおりです。

μ = x1 + x2 + … + xnn = 1n Σi=1n xi
σ² = (x1−μ)² + (x2−μ)² + … + (xn−μ)²n = 1n Σi=1n (xi − μ)² 標準偏差 σ は分散の正の平方根。得点と同じ単位に戻るので解釈しやすい
補足:n で割るか n−1 で割るか

上の式は手元のデータそのものの散らばり(母分散)です。手元のデータをより大きな母集団からの標本とみなして母集団の分散を推定するときは、n − 1 で割ります(不偏分散)。Excel では前者が VAR.P、後者が VAR.S、Python の numpy.var は既定で前者です。原スライドの式は母分散なので、この図でも n で割っています。

第7章

正規分布と「上位何%か」原スライド p.18–21

得点分布は多くの場合、左右対称の釣鐘型(ベルカーブ)に近づきます。これを数式で表したものが正規分布 N(μ, σ²) です。

正規分布の式そのものは次のとおりですが、暗記する必要はありません。大事なのは「知りたいのは高さではなく面積である」という点です。

y = f(x) = 1√(2πσ²) e−(x−μ)² ⁄ (2σ²) 曲線の下側の全面積は必ず 1(=100%)になる

「60点の学生は上位何パーセントか」という問いは、60点より右側の面積を求めよという問いです。面積を求める計算 — それが第9章の積分です。ここで確率・分布と微積分がつながります。

得点 → 上位何%しきい値をドラッグするか、スライダで動かしてください(第6章の実データの μ, σ を使用)
上位
下位
標準化 z = (x−μ)/σ
偏差値

σ が決める「散らばりの物差し」

正規分布では、平均から ±1σ の範囲に約 68.3%、±2σ に約 95.4%、±3σ に約 99.7% が入ります。σ を動かすと、山が細くなったり平たくなったりしますが、この割合は変わりません。

偏差値の正体

偏差値 = 50 + 10 × x − μσ です。つまり平均を50、標準偏差を10に置き直しただけの数値。上の図で偏差値60は必ず上位15.9%になります(σ が何点でも変わりません)。

確認クイズ 正規分布で、平均 ± 1σ(標準偏差1つぶん)の範囲には、およそ何%のデータが入りますか?

±1σ で約68%、±2σ で約95%です。偏差値60(平均+1σ)が上位およそ15.9%なのは、外側 (100−68)=32% の半分だからです。
第8章

微分原スライド p.24–30

微分は「その瞬間の傾き」を取り出す操作です。2点を結ぶ直線(割線)の傾きを、2点を限りなく近づけたときの行き先として定義します。

t と、そこから h だけ離れた点 t + h を結ぶ割線の傾きは、(高さの差)÷(横の差)で

f(t+h) − f(t)h スライドの「この三角形に注目」— 縦が f(t+h) − f(t)、横が h の直角三角形

ここで h を 0 に近づけた極限が微分係数、それを x の関数とみたものが導関数です。

f′(t) = limh→0 f(t+h) − f(t)h f′(x) = limh→0 f(x+h) − f(x)h
割線が接線になるまでh を小さくしてください。傾きの値が f′(t) に近づきます
割線の傾き
接線の傾き f′(t)
導関数
微分は接線である

原スライド p.27–28 の見出しのとおり、f′(t) はt におけるグラフの接線の傾きです。上の図で青い割線が赤い接線に重なっていく様子がそれにあたります。

導関数の公式

関数導関数関数導関数
xnn xn−1 exex
1x 1 axax loge a
√x12√x loge x1x
sin xcos x cos x− sin x
tan x1cos² x 三角関数の微分はラジアンで測ったときのみ成立
練習:(x3)′ を導関数の定義から求めよ(原スライド p.30)

y = f(x) = x3 とおくと、

y′ = limh→0 (x+h)3x3h = limh→0 3x2h + 3xh2 + h3h = limh→0 (3x2 + 3xh + h2) = 3x2

訂正 原スライドは「導関数の公式より求めよ」となっていますが、解答は極限の定義を使っています(公式 (xn)′ = nxn−1 を使うなら1行で終わってしまいます)。p.26 の例題も同様です。

確認クイズ ある点における微分係数(導関数の値)が表しているものは、次のどれですか?

微分は接線の傾き=その瞬間の変化の速さです。2点を結ぶ割線を、h → 0 の極限で接線に近づけたものが微分係数。上の図の▶自動で h を 0 に近づけて確かめられます。
第9章

積分原スライド p.31–41

積分は面積を求める操作です。そして「面積を t の関数とみて微分すると元の関数に戻る」— これが微分と積分を結ぶ橋(微積分の基本定理)です。

S = ab f(x) dx x = a から x = b までの、曲線 y = f(x) と x 軸に挟まれた符号つき面積

短冊で埋める(区分求積)

面積の定義は「細い長方形で埋め尽くし、幅を 0 に近づける」ことです。分割数 n を増やすと、短冊の合計が真の面積に近づきます。

リーマン和分割数を増やすと誤差が減っていきます
短冊の合計
真の値(定積分)
誤差
積分区間
ここが落とし穴:面積が「負」になる

関数を x² − 2x − 1 に切り替えてください。区間 [0, 3] のほとんどが x 軸よりにあるため、定積分の値は −3 という負の数になります。定積分が測るのは面積そのものではなく符号つき面積(軸より下は負)です。原スライド p.39 の答え −3 はこの意味で正しい値です。

面積を微分すると元の関数に戻る

a から t までの面積を S(t) と書きます。th だけ増やしたときの面積の増分は、細長い短冊(幅 h、高さおよそ f(t))なので

S(t+h) − S(t) ≒ f(t) · h  ⟹ S′(t) = limh→0 S(t+h) − S(t)h = f(t)
面積関数 S(t) と元の関数 f(t)t を動かすと、上の塗り面積が下のグラフの高さとして積み上がります
f(t)(上の図の高さ)
S(t)(塗った面積)
S′(t)(下の図の傾き)
確認 f(t) と S′(t) が一致する

不定積分と定積分

微分して f(t) になる関数 F(t) を不定積分(原始関数)といいます。

F(t) = f(t) dt 積分変数は t。原スライド p.34 は「dx」と書かれているが「dt」が正しい

S(t) = F(t) + C で、S(a) = 0 より C = −F(a)。したがって t = b のとき

ab f(x) dx = F(b) − F(a) 定積分(definite integral)。原スライドの綴り "definate" は誤り

積分の公式

被積分関数不定積分注意
xα 1α+1 xα+1 + C α は実数、α ≠ −1
1x log |x| + C 絶対値が必要(x < 0 でも成立させるため)
sin x− cos x + C
cos xsin x + C
tan x− log |cos x| + C絶対値が必要
exex + C

置換積分法

x = g(t) と置き換えると dx = g′(t)dt なので、

f(x) dx = f(g(t)) g′(t) dt ab f(x) dx = αβ f(g(t)) g′(t) dt ただし a = g(α), b = g(β) — x の端 (a, b) と t の端 (α, β) の対応に注意
訂正

原スライド p.36 の定積分は次のように書かれています。

αβ f(x) dx = ab f(g(t))g′(t) dt

この式ではx の積分区間と t の積分区間が入れ替わっています。置き換えるのは x のほうなので、上に示した対応が正しい向きです。

部分積分法

f(x)g′(x) dx = f(x)g(x) − f′(x)g(x) dx 積の微分公式 (fg)′ = f′g + fg′ を移項して積分しただけ
練習:定積分 03(x² − 2x − 1)dx を求めよ(原スライド p.39)
03(x² − 2x − 1)dx = [ x³3x² − x ]03 = (9 − 9 − 3) − 0 = −3

上のリーマン和の図で関数を x² − 2x − 1 に切り替えると、区間の大部分が x 軸の下にあることが見えます。負の値になるのはそのためです。

練習:球の体積原スライド p.40–41

半径 r の球を x 軸に垂直な薄い円盤に切り分けます。位置 x での円盤の半径は三平方の定理から √(r² − x²) なので、断面積は π(r² − x²)。これを −r から r まで積分すれば体積です。

V = rr π(r² − x²) dx = π[ r²xx³3 ]rr = 43 πr³
円盤を積み上げる枚数を増やすほど 4πr³⁄3 に近づきます
円盤の合計体積
4πr³ / 3
誤差

確認クイズ f(x) ≧ 0 のとき、定積分 ab f(x)dx が表すものは?

積分は面積です。細い短冊(区分求積)の合計を、分割を無限に細くした極限にあたります。微分と積分は逆の関係にあります(微分積分学の基本定理)。
第10章

ベクトル原スライド p.42–52

2つ以上の値をまとめて1つの量として扱うのがベクトルです。「点 (4, 8) から (20, 12) へ移動する」という操作を、1つの量 (16, 4) として書けます。

大きさと向きで定まる量をベクトルといい、a = (ax, ay) と成分で表します(このページではベクトルを太字の斜体で書きます。矢印つきの a⃗ と同じ意味です)。大きさは三平方の定理から |a| = √(ax² + ay²)。置かれている場所は問いませんから、大きさと向きが等しい AB と CD は等しいベクトルです。

ベクトルの和・定数倍青と金の矢印の先端をドラッグしてください
a
b
|a|, |b|
なす角 θ
結果

内積と外積

a · b = |a| |b| cos θ = axbx + ayby 内積はスカラー(ただの数)。ba の向きに射影した長さ × |a| にあたる
|a × b| = |a| |b| sin θ 外積はベクトル。その大きさが、2辺のつくる平行四辺形の面積になる
訂正:外積は「ベクトル」

原スライド p.52 は a × b = |a||b| sin θ と書かれていますが、左辺はベクトル、右辺はスカラーで型が合っていません。正しくは |a × b| = |a||b| sin θ(大きさの式)です。外積そのものは2つのベクトルが張る平面に垂直な向きを持つベクトルで、3次元でのみ定義されます。スライドの図が「平面」と「面積」を描いているのはこの意味です。

記号の使い分けに注意

原スライド p.49 では a = (4, 8)、b = (16, 4) ですが、p.50 の定数倍の例では 2a = 2(8, 2) = (16, 4) と、同じ a が別の成分で使われています。p.50 の図は「(4, 8) を起点として (16, 4) 動く矢印を、(8, 2) の2つ分に分ける」という別の話なので、記号を a 以外にするか、起点と成分を書き分けると混乱がなくなります。

名前意味
零ベクトル 0大きさ 0。向きは考えない
単位ベクトル大きさが 1 のベクトル(|a| = 1)
方向ベクトル直線の向きを表すベクトル。大きさ 1 なら単位方向ベクトル
法線ベクトル平面や直線に垂直なベクトル。大きさ 1 なら単位法線ベクトル
逆ベクトル −a大きさが同じで向きが逆

確認クイズ 2つのベクトルの内積が 0 のとき、その2本のベクトルはどんな関係ですか?(どちらも大きさは 0 でないとする)

内積 a·b = |a||b| cos θ。これが 0 になるのは cos θ = 0、つまり θ = 90°のとき垂直です。内積は「どれだけ同じ向きか」を測る量です。
第11章

行列原スライド p.53–63, 71–74

ベクトルが「数を並べたもの」なら、行列は「数を縦横に並べたもの」。たくさんの数をまとめて一度に演算するための道具で、AI やコンピュータグラフィックスの計算はほぼこれです。

m 行 × n 列に数を並べたものを m×n 行列といいます。連立方程式は行列でひとまとめに書けます。

3x + 6y = 20
2x + 7y = 18
 ⟺ 3627 xy = 2018 左の 2×2 を係数行列という。一般には A x = b と書ける

和・差・積

和と差は同じ位置どうしを足し引きするだけです。積だけは規則が違い、左の行 × 右の列の内積を並べます。左の列数と右の行数が一致していないと計算できません。

行列の積:どこが掛かっているか結果のセルをクリックすると、対応する行と列が光ります
計算の中身 結果のセルをクリック
サイズ(2×3) × (3×2) → 2×2
訂正:原スライド p.62 の計算(3か所)

① 見出しが「行列式の積(例)」となっていますが、扱っているのは行列式ではなく行列の積です。

② 1つ目の例の (2,2) 成分が 4×7 + 4×9 となっていますが、左行列の2行目は (4, 5) なので 4×7 + 5×9 = 73。答えの行列は 36416473 です(スライドは 64 と表示)。

③ 2つ目の例の下段が 1×2 + 4×3 = 15 となっていますが、2 + 12 = 14 です。

上の実験パネルの数値はすべて訂正後の正しい値で計算しています。

特別な行列

  • 零行列 O:すべての成分が 0。数の 0 にあたる(A + O = A
  • 単位行列 I:対角成分が 1、他が 0。数の 1 にあたる(AI = A
  • 正方行列:行数と列数が等しい行列。行列式や逆行列が考えられるのはこの形のときだけ

練習:法政工場原スライド p.71–74

車1台をつくるには作業員3人とロボット5台、トラック1台には作業員4人とロボット8台が必要です。作業員1人はサンドイッチ2個とコーヒー3杯、ロボット1台はサンドイッチ6個とコーヒー10杯を消費します。車2台とトラック3台をつくるとき、必要な作業員・ロボット、そしてサンドイッチ・コーヒーは?

行列を2回かけるだけ台数を変えると、下流の数量がすべて再計算されます
作業員
ロボット
サンドイッチ
コーヒー

台数が 2 台・3 台のとき、作業員 18 人・ロボット 34 台、サンドイッチ 240 個・コーヒー 394 杯。原スライドの答えと一致します。行列の積が「単位あたりの必要量」を連鎖させる装置になっていることが要点です。

確認クイズ m×n 行列と n×p 行列の積は、何行何列の行列になりますか?

積が定義できるのは「左の列数 = 右の行数」(ここでは n)のときで、結果は(左の行数)×(右の列数)= m×p になります。順番を入れ替えると積が定義できないこともあります。
第12章

行列式原スライド p.64–70

行列式は正方行列から作る1つの数で、その行列が空間を何倍に引き伸ばすかを表します。0 になったら空間が潰れており、逆行列は存在しません。

det abcd = adbc 2×2 の行列式は、2つの列ベクトルが張る平行四辺形の符号つき面積
行列は空間を変形する装置4つの数を動かすと、格子と単位正方形がどう歪むか見えます
det = ad − bc
灰の正方形(面積1)→ 緑の平行四辺形
意味

定義:すべての置換にわたる和

n 次正方行列の行列式は、1〜n の並べ替え(置換)σ すべてについて、各行から1つずつ「列が重ならないように」選んだ積を、符号つきで足し合わせたものです。

det A = |A| = Σσ∈Sn sgn(σ) a1σ(1)a2σ(2)anσ(n) sgn(σ) は σ が偶置換なら +1、奇置換なら −1

2つの要素を入れ替える操作を互換といい、偶数回の互換でつくれる置換を偶置換、奇数回なら奇置換といいます。n = 3 なら置換は 3! = 6 通りで、偶・奇が3つずつです。

6つの置換を1つずつ足す行をクリックすると、その項が行列のどこを拾っているか光ります
クリックした項が拾う成分
6項の合計 = det A
サラスの公式で検算

3×3 の場合、この 6 項を展開したものがサラスの公式です。

det A = a11a22a33 + a12a23a31 + a13a21a32a11a23a32a12a21a33a13a22a31
データサイエンスでの意味

det = 0 は「列ベクトルが1次従属=情報が重複している」ことを意味します。回帰分析で説明変数どうしが強く相関していると(多重共線性)、係数行列の行列式が 0 に近づき、解が不安定になります。行列式はその連立方程式がちゃんと解けるかどうかの目安でもあります。

付録

原スライドからの訂正一覧Math05072025.pptx / 2025-06-01 版

Web 化にあたって全75枚の数式・数値を検算しました。見つかった誤りと、その訂正内容です。番号は原スライドのページです。

原スライドの記述訂正種別
62 見出し「行列式の積(例)」 行列の積(例)」
行列式は数、行列は数の配列。別物です
用語
62 4×7 + 4×9 → 64 4×7 + 5×9 = 73
左行列の2行目は (4, 5)
計算
62 1×2 + 4×3 = 15 = 14 計算
52 a × b = |a||b| sin θ |a × b| = |a||b| sin θ 型の不一致
36 αβ f(x)dx = ab f(g(t))g′(t)dt ab f(x)dx = αβ f(g(t))g′(t)dt
a = g(α), b = g(β)
積分区間
34 F(t) = ∫ f(t) dx F(t) = ∫ f(t) dt 誤記
38 ∫ xndx = 1n+1xn+1 (+C なし) … + C
同じ表の他の式には +C があり不統一
抜け
38 1xdx = log x + C
∫ tan x dx = −log cos x + C
log |x| + C
−log |cos x| + C
定義域
35 定積分(definate integral) definite integral) 綴り
26, 30 「導関数の公式より」 「導関数の定義より」
解答は極限の定義を使っている
用語
33 f(t) < lim S(t+h) − S(t)h < f(t+h) はさみうちの後は等号を含めて 。また不等式 f(t)·h < ΔS < f(t+h)·h は f が増加している区間での話(一般には区間内の最小値・最大値を使う) 厳密性
50 a = (4, 8)(p.49)なのに 2a = 2(8, 2) = (16, 4) 同じ記号 a が2つの意味で使われています。p.50 の図は「(4,8) を起点に (16,4) 動く矢印」の話なので、 別の記号にするか、起点と成分を書き分けると混乱しません 記号の衝突
71 「必要な作業員とロボットはいくらでしょう」 何人・何台でしょう」 用字

検算して「正しかった」もの

まぎらわしいけれど正しい、と確認できた箇所です。

  • p.39 の答え −3:∫03(x²−2x−1)dx = −3。定積分は符号つき面積なので、負になるのが正解です(第9章の図で確認できます)
  • p.69 の偶置換・奇置換の分類:123・231・312 が偶、132・213・321 が奇。6通りすべて正しい
  • p.70 のサラスの公式:3×3 の6項、符号を含めて正しい
  • p.62 の3つ目の例(2×3 と 3×2 の積):18, 28, 61, 78 すべて正しい
  • p.72・p.74 の法政工場:作業員18人・ロボット34台、サンドイッチ240個・コーヒー394杯。すべて正しい
  • p.9 の三角関数:図の h(斜辺), a(対辺), b(隣辺)と sin/cos/tan/csc/sec/cot の対応は正しい

この Web 版で加えたもの

  • スライダ自動再生(▶ 自動)— 三角関数の角度回転、微分の h → 0、区分求積の分割数増加を自動で動かし、収束や変化を眺められます
  • 章末クイズ(全8問)— 各章の要点を選択式で確認でき、上部の「理解度」に正解数が出ます
  • 母分散と不偏分散の区別(第6章)— 原スライドの σ² は n で割る母分散。標本から母集団を推定する場面では n−1 で割ります
  • 符号つき面積の明示(第9章)— p.39 の答えが負になる理由
  • 偏差値の定義(第7章)— 正規分布の上側確率と結びつけました
  • 行列式=面積の拡大率(第12章)— 定義(置換の和)と幾何的意味をつなげました
  • 三角関数の微分がラジアン限定であること、対数がデータ分析で使われる理由、det = 0 と多重共線性の関係

第3回のまとめ原スライド p.75

  • 数 — 自然数から複素数までの入れ子
  • 関数、確率 — 入力に対して出力がただ1つ/全体を1としたときの割合
  • 分布、ヒストグラム — 散らばりを平均と分散で要約する
  • 微分、積分 — 瞬間の傾きと、面積。両者は表裏一体
  • ベクトル、行列 — 複数の数をまとめて扱い、変換として使う