システム管理論 II / 第 10 回

ゲーム理論(5)

囚人のジレンマ ── 全員が賢いと、全員が損をする

この回のねらい

問題

囚人 A と B が逮捕されました。2 人はある犯罪の共犯者ですが、 証拠が足りません。検事は 2 人を別々の部屋に入れ、こう持ちかけます。

2 人は相談できません。あなたが A なら、黙秘と自白のどちらを選びますか。

利得表(数字は懲役年数。小さいほうが良い)

A \ BB が黙秘B が自白
A が黙秘A:2 B:2A:10 B:0
A が自白A:0 B:10A:5 B:5

A の立場で考える

B が…A が黙秘ならA が自白ならA はどちらが得か
黙秘した2 年0 年自白(0 < 2)
自白した10 年5 年自白(5 < 10)

B が何を選んでも、A は自白したほうが得です。 つまり自白は A の絶対優位な手(支配戦略)。 B にとっても事情はまったく同じなので、B も自白します。

結果、2 人とも自白して、それぞれ懲役 5 年。 ところが 2 人とも黙秘していれば 2 年で済んだのです。

ここで起きていること

結果2人の合計安定か
2人とも黙秘(2年, 2年)4 年× 一方が自白すれば得をするので崩れる
2人とも自白(5年, 5年)10 年○ ナッシュ均衡。一方だけ変えても損をする
片方だけ自白(0年, 10年)10 年× 黙秘した側が自白に変えたくなる

ナッシュ均衡は、必ずしも全体にとって最良ではありません。 「2人とも黙秘」のほうが 2 人にとって明らかに良い(パレート優位)のに、 そこには誰も留まれない。
各人が合理的に自分の利益を追った結果、全員が損をする。 これが囚人のジレンマです。

身のまわりの囚人のジレンマ

場面「黙秘」にあたる行動「自白」にあたる行動
価格競争価格を維持する値下げして客を奪う
広告合戦広告費を抑える広告を増やす
環境問題排出を抑える気にせず生産する
軍拡競争軍縮する軍備を増やす

どれも「全員が抑えれば全員が得なのに、抜け駆けする動機がある」という同じ構造です。

くり返すと何が変わるか

1 回きりなら自白が正解です。しかし同じ相手と何度も対戦するなら話が変わります。 今回裏切れば、次回から相手も裏切ってくるからです。

アクセルロッドの実験。 政治学者ロバート・アクセルロッドは、 囚人のジレンマを 200 回くり返すコンピュータ・プログラムを世界中から募集し、総当たり戦をさせました。 複雑な戦略が多数集まったなか、優勝したのはもっとも単純なプログラムでした。

しっぺ返し戦略(Tit for Tat)
 1 回目は協調する。
 2 回目以降は相手が前回やったことをそのまま返す

なぜ強いのか

性質内容
上品自分から裏切らない。だから協調的な相手とは互いに得をし続ける
報復する裏切られたら必ず返す。だからカモにされない
寛容相手が協調に戻れば、すぐ許す。報復が延々と続かない
単純相手にとって分かりやすい。「裏切れば損」と伝わる

経営への含意。 取引が 1 回きりなら、相手を出し抜く誘惑があります。 しかし関係が続くと分かっていれば、協調のほうが得になります。 長期の取引関係、ブランド、評判といったものは、 「これは 1 回きりのゲームではない」と互いに信じさせる仕組みだとも言えます。

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