前回は仕入量 30〜50 個をすべて計算して、期待利益が最大の 40 個を見つけました。 21 通り計算すれば確かに答えは出ますが、需要の幅が 0〜1000 個ならどうでしょう。 1 本の式で答えが出せると便利です。
いま q 個仕入れることに決めているとして、もう 1 個増やすべきかを考えます。 増やした 1 個には 2 つの運命があります。
| その 1 個が | 起きる確率 | 損益 |
|---|---|---|
| 売れた(需要 > q だった) | P(D > q) | 利益 +(売値 − 仕入値) = +40 円 |
| 売れ残った(需要 ≦ q だった) | P(D ≦ q) | 損失 −仕入値 = −60 円 |
増やしたほうが得なのは、期待値がプラスのときです。
40 × P(D > q) − 60 × P(D ≦ q) > 0
⇔ P(D ≦ q) < 40 ÷ (40 + 60) = 0.4
つまり 累積確率 F(q) = P(D ≦ q) が 0.4 を超えるまでは増やしたほうが得で、 超えたところで止めるのが最適です。この 0.4 を 臨界比(critical ratio)と呼びます。
臨界比 CR = 品切れの損 ÷(品切れの損 + 売れ残りの損) = (売値 − 仕入値) ÷ 売値 = (100 − 60) ÷ 100 = 0.4
最適仕入量は、F(q) ≧ CR となる最小の q。
需要の累積確率を並べます。
| q | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| F(q) | 0.15 | 0.19 | 0.23 | 0.29 | 0.35 | 0.41 | 0.48 | 0.55 |
F(39) = 0.35 はまだ 0.4 未満、F(40) = 0.41 で初めて 0.4 以上になります。 よって 最適仕入量は 40 個。前回 21 通り計算して得た答えと一致しました。
見てほしいこと。 仕入値を下げる(=売れ残りの損が小さい)と臨界比は上がり、多めに仕入れるのが得になります。 逆に仕入値を売値に近づけると臨界比は 0 に近づき、ほとんど仕入れないのが正解になります。 「儲けが薄い商品ほど、品切れを恐れず在庫を絞る」── 直感とも合うはずです。
| 条件の変化 | 臨界比 CR | 最適仕入量 |
|---|---|---|
| 売値が上がる(儲けが厚くなる) | 上がる | 増える |
| 仕入値が上がる(売れ残りが痛い) | 下がる | 減る |
| 需要のばらつきが大きい | 変わらない | 同じ CR でも、分布が広いぶん量は動く |