第 2〜3 回のおにぎり問題では、相手は「天気」や「客の気まぐれ」でした。 確率で振る舞うだけで、こちらの手を読んで対抗してくる存在ではありません。
ところが現実の経営では、相手もこちらを見て手を決めます。 値下げすれば競合も値下げする。新製品を出せば追随される。 このとき「自分にとっていちばん良い手」は、相手が何をするかによって変わります。 これを扱うのがゲーム理論です。
ここでいうゲームとは、 チェスやポーカーのような「各人の行動を規定する一組のルール」のことです。 そのルールに従って実際に行われたものをプレーと呼びます。
ゲーム理論は、利害が対立する行動主体からなる社会での人間行動を、 ゲームとして形式化することで理論的に解明しようとします。 フォン・ノイマン(J. von Neumann)とモルゲンシュテルン(O. Morgenstern)に よって大成されました。
| 協力ゲーム | 非協力ゲーム | |
|---|---|---|
| 話し合い | ある | 無い(あっても拘束力なし) |
| 合意の拘束力 | ある | 無い |
| 各人の決定 | 提携して決める | それぞれ独立に決める |
| 中心概念 | 配分・提携 | ナッシュ均衡 |
この授業で主に扱うのは非協力ゲームです。 「相談できない」「相談しても守られる保証がない」という、 実務でよくある状況を扱えるからです。
ナッシュ均衡とは、 「相手の手を所与としたとき、自分だけが手を変えても得をしない」という状態のことです。 誰にも一人で抜け駆けする動機がないので、そこで落ち着きます。 第 10 回の囚人のジレンマで、この概念の意味を深く見ます。
問題。あなたは A さん、相手は B さんです。ルールは簡単です。
2 人は協力しません。2 人とも利己的です。あなたはどちらを言いますか。
自分の手を先に決めようとすると迷います。相手の番から先に考えます。
| もしあなたが「ノー」と言ったら | B の取り分 | B はどうするか |
|---|---|---|
| B が「イエス」 | 3 万円 | B は利己的なので 「イエス」を選ぶ |
| B が「ノー」 | 2 万円 |
B は必ず「イエス」を選びます。そのときあなたの取り分は 0 円です。 一方、あなたが最初に「イエス」と言えば 1 万円。
よってあなたは「イエス」と言うべきです。 「2 人とも 2 万円」というもっとも望ましそうな結果は、 B にそれを選ぶ動機がないため実現しません。
ここで使ったのが後ろ向き帰納法(バックワード・インダクション)です。 最後の手番から順に「その人ならどうするか」を確定させ、前へさかのぼる。 ゲーム理論のもっとも基本的な解き方です。
教訓。 自分にとって望ましい結果があっても、相手にそれを選ぶ理由がなければ実現しません。 交渉や契約の設計とは、相手に「こちらの望む手を選ぶ動機」を与える作業だ、とも言えます。